ブックタイトル押出法ポリスチレンフォーム断熱材による木造軸組住宅の断熱設計施工マニュアル

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概要

押出法ポリスチレンフォーム断熱材による木造軸組住宅の断熱設計施工マニュアル

11. 健康な暮らしを支える住宅断熱 従来、住宅高断熱化の目的は暖冷房に関するエネルギー消費の抑制と、温熱快適性の向上の二つとされてきました。省エネはともかく、快適性については、筆者は永年、疑問を持ち続けてきました。断熱性がほとんどない古い伝統民家に住んでいる人たちの、住まいに対する満足感を知ったことがきっかけです。今では作ることが困難な建物そのものに対する満足感をもたれ、冬の寒さは季節感の一つとして、コタツの快適性を強調する方々の笑顔には一点の曇りもありませんでした。その時から、「快適」で建物の善し悪しを判断することは不可能であろうと思い始めたわけです。 それから30年以上、では何をもって住宅を判断すればよいのか、悩みは深まるばかりでしたが、この5年ほど、ようやくその答えが見えてきました。 数年前、高断熱住宅に暮らし始めた人達の居住レポートを読んでいて、ふと、体調変化に関する記述に目が留まりました。いわく、膝の痛みがなくなった、風邪をひかなくなった、アトピーが出なくなった、など。これらは快適性の向上ではなく、体調が改善した、すなわち健康性の変化です。このとき、おそまきながら、住む家と健康性の間になんらかの関係があり、断熱性の影響が高いのではないか、と考えました。 誰でも分るように、問題になるのはその現象・効果が表れる頻度です。これに着目して、アンケート調査を行いました。何回かの段階に分けて行いましたが、最終的に24,000人分の完璧なデータセットが私の手元にあります。 これの分析結果は、きわめて興味深いものでした。転居後の断熱性が高いほど、アトピー性皮膚炎や気管支喘息、花粉症などの症状が出なくなった人が増えるのです。統計分析の結果は、明確にこの相関を裏付けました。うすうす期待していた断熱の健康改善効果が想像以上に明確に示されたのです。 これより、住宅内の「低温」が健康に悪影響を与えていることが示唆されます。冬期間、屋内全体を暖め続ける欧米とは異なり、わが国では人の在・不在に合わせた採暖生活をおこなっています。従来は、省エネと快適を満たす方法として、推奨されていましたが(暖房はまめに消しましょう!)、健康性の点では私たちのやり方には大きな問題があります。これの改善には、住宅の高断熱化が不可欠となります。 現在、2020年の住宅を含む新築建築物の省エネ義務化に向けて様々な取り組みがなされています。これで、日本の住宅の断熱化がよりいっそう進む、と期待する方もいると思いますが、本当にそうでしょうか。省エネ化の方策は断熱だけではありません。太陽電池や蓄電池、燃料電池などの設備機器の導入と高効率化もインフラ・エネルギーの節約に大いに役立ちます。事実、現在議論されている義務化されるとされる住宅省エネ基準の断熱レベルは、H11年基準ベースであり、決して高いものではありません。 そのような中で、住宅の高断熱化、従来以上の高断熱化の意味を改めて考えますと、全体連続暖房と共に、健康な生活を支えるため、と言えます。また、そのように位置づけますと、スマートハウスに代表される、21世紀の住まいのありようにも新たな方向性が出てくると思います。 国交省主導でスマートウェルネス住宅普及促進事業のなかで健康影響実証調査が始まり、よりいっそう、注目を集めるようになりました。エビデンス収集と、これの整理に基づく結果の公表はまだしばし先のことですが、この方向性自体が覆ることはないと思います。 医療費の高騰が問題になる中で、誰もが求める、活き活き健康で長生き、これを支える断熱住宅を一件でも多くすることが社会的急務であると思っています。 住宅事業に関係するみなさんのご理解とご協力の元、住宅業界全体で、よりいっそうの高断熱化に励んでいただきたいと思います。                     近畿大学 建築学部長  教授・博士(工学) 岩前 篤